Disce libens

研究にあまり関係しない雑記

コバルビアスと16世紀における人文主義、スコラ学(1)

 

 

 Katherine Elliot van Liere, Humanism and Scholasticism in Sixteenth-Century Academe: Five Student Orations from the University of Salamanca,  Renaissance Quarterly Vol. 53, No. 1 (Spring, 2000), pp. 57-107の本文の前半までです。

 著者のLiereはここでも扱われているコバルビアスと同時代の法学をめぐる研究で1995年にプリンストンで博士号を取っている人です。そっちは入手できず読めてませんが、他のカイエタヌスやビトリア を扱っている論文は読んだことがあるくらいです。そのほかにもカトリックの歴史記述についての研究もしています。

 

それでは以下紹介です。

 

 

 16世紀における人文主義とスコラ主義の対抗という図式は、そのような図式に対する異議申し立て、リヴィジョニズムを経た上でもやはり、大枠として認められている。だが、その両方の主義が接続していることが認められている学問領域として法学がある。その領域においては人文主義者とスコラ主義者の協働が生じていたのだ。両者の敵対という通説的理解はその接触を覆い隠してしまう。近年の研究者達も、法においても両者の対抗が存在していたという図式を保持しており、バルトルス的なmos italicusを人文主義的なmos gallicus(それはポリツィアーノやアルチャート、ビュデによって展開された歴史的方法論を指している)が放逐したのが16世紀だと理解している。確かにその二つの対抗は重要だが、それのみに注目していると、両者の接触という事態から目を背けてしまうことになる。
 付録として付したラテン語原文の史料は、人文主義的、スコラ的それぞれの潮流が法学において融合しているあり方を示すものである。ここではバルトルス主義はmos gallicusに頭を垂れてなどいない。これはサラマンカ大の法学部で1538,39年に記され、恐らく実際に講述された、学生による学術的な講演録に基づいたものである。著者はディエゴ・デ・コバルビアス(1512-1577)で、彼はサラマンカ大で1539年から1548年まで市民法とカノン法を教えた(27の時から!)。カール五世やフェリペ二世の顧問も務め、教鞭を執った後はロドリゴやセゴヴィアで司教もやっている。彼は「スペインのバルトルス」という異名も有しており、スコラ的な方法論を備えていたことは大いに認められている。彼の講演の中心テーマは「軍事と学芸」であり、それはスコラ的伝統人文主義的伝統の両者で古典的テーマとして認められてきたものであった。

 その五部からなる講演録は学生の手になるものとして残っているという点で、同時代のその他の残存史料とは異なっている。他の残存テクストの殆どは大学教師の手になるものであり、有名どころだとネブリハのrepetitionesや、ビトリアの講義録などが挙げられるだろう。コバルビアスの講演は、学生身分の最後の時期に記されたものであり、実際1538年の12月にはlicentia(講義資格)を彼は授与されている。講演録のタイトルは講義のポストを得るための講演と題されており、そのlicentiaの口述試験のために作成したと想定されるのだが、それは伝統的な修辞学の伝統を反映したものとなっている。講演録の中には彼が資格授与のための審査で苦労したことを臭わせる表現も存在しており、第三部以降はlicentiaの口述試験の後にも手を加えたと考えられる。そのような時期に行われていたこともあり、講演録は当時の大学の雰囲気を伝えるものだと言えよう。
 修辞学的には講演録の第二部は聴衆に興味を持たせるためのprooemiumの役割を備えており、第三部はperoratio、直接的な訴え(具体的に言えば資格付与の訴え)のために行われたものとなっている。これらは法学の分野における著者の専門知識を示すためとよりは、修辞の能力を示すために作られたと考えられる。

 

以上です。 次から コバルビアスとバルトルスの伝統という箇所に入ります。