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研究にあまり関係しない雑記

イツァーク・ギルボア『不確実性下の意思決定理論』5章のメモ

 国際フォーラムでの発表の準備にかかりっきりでしばらく手に余裕がなかったため、最後の更新から日が空いた。

 それに加えて短い準備期間で多少無理をきかせたため体調を壊しているという事情がある。げんにまだ熱がある状態であるが、寝てばかりいるのもひまなので更新する。読み違えがあったりしたら後で訂正する。

 

 

 

 以下のものの続きである

kannektion.hatenablog.com

 

 


5 主観的確率
5.1
 確率を主観的信念の反映だ解釈する立場が紹介される。与えられた情報から各選択肢が当てはまる確率を高い順に並べてもらうテストの例が挙げられ、それが主観的確率の提示の実例とされる。

5.2
有名な主観的確率をめぐる議論としてパスカルの神の存在を巡る主張が紹介される。ハッキングはこの主張の特性を以下のように説明する。まず、パスカルは信じることを、信じうる、信じるべきという事象と区別して思考している。更には、神の存在ではなく、神の存在確率が特定の区間に存在しているという見解のみを要求しているので、弱い不可知論に対しては反駁可能な論証をなしている。実際、パスカルの発想は、意思決定のマトリクスの枠組みの先駆、弱支配戦略の観念、期待効用最大化観念の祖型。複数の事前確率の想定といったものを含んでおりかなり斬新なものだと評価し得る。

5.3
古典統計学ベイズ統計学の相違が説明される。ベイズ統計学の定義に含まれる範囲は分野により相違している。コンピュータ科学では事前確率を事後確率に多少なりとも適用する立場が広くベイズ主義とされるのに対し、経済学では未知のあらゆる事項に対して状態空間モデルと事前確率の制約をあてはめる立場のみをベイズ主義としている。
 古典統計学においては複数の未知のパラメータ、確定しない格率変数を処理することになるが、ベイズ主義的立場においては、所与の観察から事後確率を測定し、そこから特定の変数のみを処理することになる。一定の値に仮定されているパラメータと、観察可能な変数の間での区別が行われない(信頼区間なども含め?)。

5.3.2

 ベイズ主義の想定では、与えられたサンプルに逐次応じて想定する変数を変えるため大数の法則が適用されない。その法則は確率変数の独立性を想定しているためである。そして、古典的立場においても独立性は部分的にしか想定されていない。どういうことか。
 たとえばコインで10度裏が出た場合、試行の独立性を想定するならば正しいコインにおいて次にどちらの目が出るかに偏りはない。だが、もしかしたらこの場合は裏が出やすいコインである可能性も想定するべきであろう。さらには試行の独立性が存在しない場合も存在する(最初に出た目が次に出た目を規定するように)。分布パラメータが未知の場合には、サンプルはそれぞれ同一条件の試行とみなしえないのであり、とりあえず設定することで独立性が得られるのでしかない。

5.3.3

 ベイズ主義者の場合所与のサンプルにおうじてパラメータ推定がなされる以上、事例ごとの独立性を真剣に想定することは出来ない。だが、ファネッティは大数の法則の条件を、独立で同一である確率変数に限らず、交換可能な確率変数に適用することで問題に対応している。
 交換可能な確率変数とは、独立ではない同一の分布をなす変数のことを指す。本著では問う格率でpが1/3,2/3のどちからになるB(p)に含まれるX1,X2を考えている。この二つは一方の値に応じてもう一方の値の格率が相違するため独立ではないが、分布は定義上同一である。このような変数は独立同一分布の変数を混合することで生成可能である。このような場合ににおいても、パラメータpに関して特定の値への信念を持つならば、それは同一で独立な格率分布として処理可能である。変数の相関はパラメーターが未知であることのコロラリーとされる。ファネッティはそのような確率変数の系列においても、サンプル平均は、特定のパラメータにおける期待値に収束するということを示したらしい。

5.3.4
 古典統計学の考え方では、ある標準偏差が知られている格率変数について、特定の区間内の信頼水準が定まったとしても、その信頼水準を直ちにある特定の要素がその区間内に含まれている格率に置き換えることはできない。つまり、変数として処理されるのは当該格率変数なのであって、具体的な特定の要素の出る目を変数として扱うことができない。ここにおいてμで表現されている特定の要素は変数ではなく条件の定義を行うための道具でしかない。
5.3.5
 古典統計学の手法に従って導出された格率と、設定条件から導出され得る格率が原理的に反する事態が紹介される。長さ1の一様分布の同一の確率変数に従った二点の距離が0.6ある場合はその中に区間の中点が含まれる格率は定義上100パーセントであるが、古典統計学の手法では50パーセントでしかあり得ない(説明略)。純粋な古典論理の言語ではいくつかのデータ条件を反映した推論を既述できない。

5.3.6
 しかし、古典統計学にはベイズ統計学とは区別された、一般性客観性の非常に高い推論の構成のために貢献するところもある。
 例1 犯罪者の有罪無罪認定と、その犯罪者に対する態度の区別において   前者の法廷での営みにおいては主観的信念は採用されず、事前確率もある一定の外在的ルールによって導かれることになる。だが、後者においてはベイズ的な、証拠によりアドホックに事前確率を変更する態度も認められる。
 例2 科学において、科学者の経験からくる事前確率を導入したうえで事象を分析して確率を導出することは、事前の研究作業の手引きとしてはよいが、研究として公開される場合には更に客観性の高い基準での導出が要求される。